集中しているうちにSHRの時間が近づき、クラスメイトも大半が登校している時間となった。
 先ほどの静かな教室ではなくなり、賑やかな教室へと変わっていた。

 予鈴が鳴り満里奈先生が教室に入ってくる。
 堂々としている。
 本当に昨日、話した様にトイレで泣く事があるのだろうか。
 凄いギャップで知りたいランキングの中にすぐに入ってしまった。
 満里奈先生の知りたいランキングでも作れそうと思った。
 まあ。作らないけれどもな!
 
 昼休み、部室に満里奈先生から呼ばれた。
 紀香の目の前で呼ばれたのだ。
 
「いってらっしゃい」
「それじゃあ、張り切っていこう」

 こないだと違い、ここは強引に引っ張られる形で部室に行く。
 目が浮き浮きしているのでなんだろうと思いながらついていった。

 部室のドアを勢いよく開けた。
 そこには村瀬部長がいた。

「来たか。まあ座れ」
「はい」

 部長ができたての紅茶を出してくれた。
 部屋には檸檬の香りが充満した。
 ありがたくいただく事にする。
 あー、舌をうるわしてくれる感触がたまらない。

「本題に入るが田伏には、小説の審査側にも回って欲しい」
「え……私でいいんですか?」

 村瀬部長は胸を叩き、自信満々に言う。
 自分の考えに狂いはないと言わんばかりに。

「……でも紀香の方が適任じゃあ?」

 もっともな正論をぶつけてみた。
 どう考えても実力は紀香の方が上だし、なぜ村瀬部長が私を認めたのかが分からない。
 ベスト3に紀香は入っているのだし、これを知ったら紀香は怒るかな?

「ハハハ! 今、相手の事考えていたろ?」

 村瀬部長は高笑いをした。
 予想していた答え通りだったのでおかしかったらしい。
 こちらもつられて笑ってしまった。

「その田伏の謙虚さが気に入ったんだ」

 肩をぽんと軽く叩かれた。
 これには承諾をしてはいと答えた。

「大変かも知れないけれど、1年からは田伏さん1人だから気合を入れてね」

 と満里奈先生はプレッシャーをかけてくる。
 そのプレッシャーには押しつぶされそうになるが今はやってやるという気持ちが先行している。
 そして部活動になった。
 選考側に1年生がいる異例の事態に周囲は驚いた。

「マジで!?」
「本格的にやるなー」

 などと優子先輩たちの声が聞こえてきた。
 紀香はどこか遠い目をしていた。
 やはり、自分より下の人間が審査員なんて面白くないのだろうか。
 直接、聞くのはこわい。
 どこかで本音が聞ければいいなと思っているがこればかりは難しそうだ。
 紀香も少し落ち込んでいる表情を見せている。
 いつもより、ボールペンの扱いが雑の様な気がする。

 だが、会話していると最初はぎこちなかったがいつも通りに戻ったので、そんなに落ち込んでいない様に見えた。
 ふう、普通に会話できるから安心をした。
 やはり、思い過ごしね。

 選考基準など、村瀬部長にレクチャーして貰い、前回の課題小説を見ていく。
 練習の一環という事で終わった課題で練習をしている。
 ここで面白いのが人間の情である、紀香の小説をなるだけ残しておきたいと考えてしまう。
 まあ、紀香なら何もしなくても残るだろうけれどそれでも友達なのだ。

 時間がよくなったので今回の課題を進める事にした。
 ヒロインが大学生になったパートから書いているのでいわば続編である。
 今までの制服が私服になるのでファッションを細かく携帯で調べる必要がある。
 元々、ニーナ程おしゃれではないので、ファッションには疎い。
 調べるのに一苦労だ。
 そして大学のどこまでを文章に落とすのかを考える。
 就活ものはやりたいので大学3年生までと過程をしていった。
 就活には苦戦させようと思った。
 お姉ちゃんも今、就活には苦戦していたっけ……。
 と、頭の中で想像してまずはプロットと登場人物の設定に追記をするのだ。
 ここは手慣れたものでどんどん記載される。
 思わず、隣の席の優子先輩がチラ見をするほどスムーズに書けているのだ。
 昨日からこの調子だ。

「絶好調ね」

 満里奈先生は思わず、手を叩いて褒める。
 満里奈先生は小説好きで年間50冊は読むという。
 自分では執筆経験はないらしいがそれほど読めば凄い小説は書けると思う。
 ちなみにこれは先ほどの昼休みに知ったので優花里と村瀬先輩しか知らない。
 公式には明かしていない情報であった。
 明かしていないというか、明かせる時間がなかった。

 部活動が終わり、辺り一面が暗くなる。
 進学校なので7時間目まで授業があり夕方になってから、部活動が始まるため終わるのは19:00を回るのだ。
 帰る時は大体、1人で帰るのだが今日は満里奈先生と一緒であった。
 高校の最寄駅まで方向が一緒と入学式の日に知っているので帰る事にした。
 まさか、満里奈先生から誘ってくるとは思わなかったので、驚きつつ心が弾む。
 満里奈先生にちょっと気持ちが寄って行っているなと分かるので、制御している自分がいるのも自覚している。
 これは教師と生徒であって恋なんかではないと……。
 だが確かに惹かれる何かは存在していた。
 帰り道、何も会話がなく静寂が続く。
 まるで恋人同士の様にゆっくりと歩く、ひょっとして相手も意識しているのでは? と期待したが表情を見る限りでは出来る妹を見ているかの様な表情なのでそれはないなと思った。
 まあ。相手が余程の年下好きなら話は別かも知れない。

「不安な事だらけですか、いつも堂々としていてそうは見えないですけれども」

「え、そ、そんな事ないわよ。正直、言うとトイレで泣いたりしているんだから」

「え……大人って大変なんですね」


 優子先輩はかみしめるようにスープを飲みながら言った。

 言葉も同時にかみしめているのだろう。

 この会話を聞いていつも堂々と明るくいれるのは裏で並々ならぬ努力があるからだろうなと感じた。

 教室内での満里奈先生しか知らないので意外な一面を知った。


「けれども掛布が復帰したら先生は顧問辞めちゃうの?」

「あー。掛布先生ね。どうなんだろう私はこのまま続けたいけれども」

「私、満里奈先生の方がいい」


 部員たちが口々に満里奈先生を推すものだから、掛布の立場がなくなる。

 しかし、他の先生の事を呼び捨てにしても怒らない先生も珍しいよな。

 徹底して生徒目線に努めているのでひかれた。


 そして2時間くらい談笑をして解散をした。

 夜、自宅に帰宅をした。

 お父さんは今日は残業で帰ってこない。

 胸をなでおろす。

 お母さんは余程、お父さんが苦手なのねと苦笑いをしていた。

 テレビをつける。

 テレビでは歌番組が放送されていた。

 そーいえばニーナは芸能人になったんだよな。

 夢みたいに嬉しいし、ちょっと実感が沸かない。

 ニーナは歌が得意だし(良い意味で得意というレベルでもないんだけれども)将来はこういうテレビ番組に出るのかなと想像しながら見ている。


 お母さんが晩御飯の支度を終え、席に着く。

 先ほどのファミレスでは物足りなかったので家でも晩御飯を食べる事にしたのだ。

 がっつり食べていないからだ。


「最近、学校はどう?」

「毎日楽しいよ」

「良かった。最初、あんたが死んだ目をしていたから心配はしていたのよ」

「えー、そんな目はしていない」


 親子団らんの時間、お母さんには素直になれる。

 やはり性別が一緒というのもあるだろう。

 思春期は特に難しい年ごろなのだ。

 ご飯を食べながら小説の事を思い出した。

 いけないと思いながら頭の中でプロットを練る。

 ちょうど、ヒロインが大学生になったパートを練る。

 幸い、東京に一人暮らしをしている姉がいるものだから大学生活の事を聞ける。

 半分、妄想で半分リアルな学生生活が書けるのだ。


「部活に正式に入ったんだ」


 優花里はご飯を食べながら話すものだからお母さんから注意をされた。

 正直、小説の事を思い出したからといい、慌てて食べすぎだ。


「へー。また文学部に入ったの?」

「うん」


 お母さんは娘の事なら何でもお見通しの様で笑顔で質問をしてきた。

 中学の延長線上で文学部に入部したと思っている。

 最初はそのつもりだったがニシジョのレベルは中学とは比較できないくらいすごいので中学の延長線上では無理だった。

 とてつもない覚悟をしたのであるという事をお母さんに伝えた。


「ニシジョってすごいのね……」

 

 お母さんは言葉が出ない雰囲気だった。

 口をあんぐりと開けていた。

 ご飯を食べ終わったのでごちそうさまと言い部屋に戻った。

 早速、机に向かいながらノートを広げプロットを書いてゆく。

 執筆は絶好調である。

 お母さんには心配をかけまいとフル回転をする優花里。

 着替えを忘れて制服のまま、執筆をする。

 時計をみたら21:00を回っていた。

 いったん、風呂に入る事にした。

 風呂に入っても小説の事を考え続けた。

 優花里は中学のころから一度考えたら止まらない癖を持っている。

 これは武器だと中学の顧問に褒められてから、伸ばすようにしている。

 まあ、中学3年生は受験で執筆活動ができなく、久しぶりに書いたショートショートはどうなることやらと思ったがそれでも長年培ってきた感覚はなくならなかった。

 23:00になったので寝床につく。

 爆睡モードに入り、その日は終わった。

 翌朝、30分寝坊をしてしまい、時間に余裕がなかった。

 まあ。寝坊と言っても絶望的な時間ではなく、登校時間には裕に間に合う時間帯だ。

 だが、朝も小説の事を考えたいので遅れるのはよくないとしている。

 パンを速攻で食べて、コーヒーをかきこみ、足早に家を出る。

 学校に到着しているころには汗だくになっていた。

 今日はついてないわね。

 既に紀香は優雅に席についていた。


「うるさいわねえ」

「ごめん」


 文学部的には遅刻よと言わんばかりの表情をしている。

 それは同感だ。

 2人の中には暗黙の了解があった。


「あなたにしては珍しわね」

「昨日、遅くまでプロット書いててね」

「あれから、プロットを書いたのね」

「うん。今回は結構自信もってできてるからいい感覚を保ちたいんだ」

「良かったじゃない」


 礼儀よく座りながらこちらに顔だけを向ける紀香。

 すぐ、本に目を向ける。

 紀香は恋愛小説を読んでいた。

 内容は至ってシンプルだ。

 落し物で男女が知り合いそこから恋に発展していくという本の内容のものである。

 確か、年間の売れ行きも良かった記憶がある。

 うるさいから話しかけないで頂戴オーラが紀香から出ていたので本の内容は気になるがプロットを書き進める事にした。

 クラスの風景にまでなっている為他のクラスメイト達は、当然のごとくふるまっていた。


 外は太陽が沈みそうだが、部屋の中は元気いっぱいの女子高校生が溢れていた。

 自分の作品が映画になる。

 そう考えただけで心が躍る。

 子供の様にはしゃいだ。

 この中から一人選ばれるとはあるが、ばらばらな作品を書くのは大変なので話し合ってジャンルだけは決める事にした。


「ジャンルをどうするかだね」

「うん。そこが重要だよ」


 3年生の池田優子先輩が口火を切った。

 満里奈先生がそれに返答をする。

「佐々木さんと、田伏さんの意見もききたいわね」


 満里奈先生が更に突っ込んできた。

 優花里は満里奈先生の会話に一喜一憂をしていた。

 何故だろう、好きでもないのにこの胸がジーンとする感じは。

 よく分からない。


「女の子らしく恋愛映画でいいんじゃないですか?」

「私も同意ね」


 2人の意見が見事合ったところで執筆に入いる事になった。

 満里奈先生が優花里の事を呼ぶ。


「田伏さん」

「はい。何でしょう」


 椅子から静かに立ち上がり、背筋を伸ばして満里奈先生の目の前まで行った。

 距離感がちょっと近いかなと思うような位置だが満里奈先生は気にしていない様子だ。


「田伏さんはこないだの小説を長編にしてみない?」

「え……なんでですか?」

「あの2人が結ばれるのかどうか気になるじゃない」

「えーと、確か2人は嵐が過ぎ去った丘の上で再会するで終わりましたよね」

「そうそう。再会してからどうなるかが楽しみ」


 満里奈先生はまるで女子高校生の様にキャッキャしながら意見をいう。

 この先生ってぶりっ子なところがあるけれどもよく女子から嫌われないよなーと2回も思ってしまった。

 こないだの相談の時と同様に。


「うーん、分かりました。そうさせていただきます」

「ありがとう」


 最後はお礼を言われて自分の席へと戻った。

 こないだの延長線上のものを作れと言われたけれど、人生ものにしちゃおうかしら。

 主人公の半生を描くっていうのも面白そうね。

 と考えながらルーズリーフにプロットを書いていく。

 あらかじめ、土台は決まっていたので最初の時よりは数倍楽である。

 サラサラとボールペンが波の様な音を立てて走る。

 どうやら絶好調の様で安心をした。

 

 すると優子先輩がしゃべりかけてきた。

「あなたってやるわね」

「ありがとうございます」

「私が書くとどうしてもNTRものになっちゃうよね」

「はぁ……寝取られですか……確かに一般小説向けではないですよね」

「元が池野潤みたいな激しい小説が好きだからかしら」

「あー。俺たちリーマンショック入社組でしたっけ?」

「そうそう。それの恋愛版みたいな感じなのよね」


 なるほど、分かる気がすると腕組みをしてうなずいた。

 人の苦労は十人十色である。

 確かに楽しく書きたいのにNTRは痛いなと思う。

 かと言って作風を変えるとなると長くスランプに陥る可能性があるのでむやみにアドバイスができないのだ。

 何か、村瀬先輩に認められてから上級生が喋りかけてくる率が上がったなあ。

 満里奈先生もその調子よと、目線をこちらにおくる。

 心の中ではいと返事をした。

 きれいな瞳には吸い込まれそうになる。

 太陽が完全に落ちたところで最終下校時刻となり、部は解散となる。

 この後、数人、ファミレスで親睦会をやろうという事になり、満里奈先生同伴の元開催されることになった。

 満里奈先生は生徒目線で語ってくれるので誰も煙たがらないのである。

 普通は先生が参加すると言ったらちょっと待てよという事になりそうだが、ならないところが満里奈先生の魅力である。


 ファミレスは客がまばらであった。

 この時間は他校の生徒も多い。

 西女子高校の制服を見ると尊敬のまなざしで見られる事が多いので親睦会でも変に羽目を外せないという事を実感しつつある。

 隣の席の家族連れは「将来、ニシジョに通おうね」と会話しているのが聞こえるくらい。

 地域にもニシジョ精神が根付いているのである。

 ニシジョ精神とは校則にもあるよう”恥を知れ!”というとろこにある。 

 まさに伝統ある学校の校訓で優花里も好きである。

 まあ、おそらく全校生徒が好きであろう校訓だ。


「そういえば私の事はあんまり話してなかったわよね」

「あー、確かにそうですよ。新任の先生以外の情報は知りませんでしたし」


 満里奈先生は話したくてたまらなかったようだ。

 自分から話したいオーラを出している。

 紀香、村瀬部長、優子先輩、私と出席したメンバーは聞きたがっている。

 丁度良いタイミングとなり話はじめた。


「私はね。大学を出て今年、はじめて教員になったのだから1年生の皆と同じ1年よ」

 

 コーヒーを優雅に飲みながら、しゃべり始める。

 砂糖とミルクをたっぷり入れていた。

 ブラックはダメなのかな?

 童顔と一緒でお子様体質なのかな?

 どんどん、満里奈先生に対する妄想が膨らむ。


「先生、一年生で不安な事ってないんですか?」

「……正直に答えると、不安な事だらけよ」


 コーヒーは甘いはずだが表情はブラックコーヒーを飲んだ時みたいに苦笑いをしていた。

 ちょっと茶目っ気を出したかったのか舌を出した。

 それがまた可愛かった。男なら秒殺だろ。


↑このページのトップヘ